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[バースタウン]についてのコメント。

20xx年 日本
 数十年前から叫ばれている少子化の影響で、日本は人口が減り、特に子どもの数の減少が止まらなかった。
 そこで、日本は少子化対策の最後の手段を講じた。そのキッカケは、ある産婦人科医師が書いた一本のコラムだった。
 日本では、少子化が叫ばれる中、中絶をする女性が後を絶たない。その数は、公にされているだけでも何万、何十万と言われている。その子どもの命を救ってやることは出来ないだろうか。
 偶然そのコラムを読んだ政治家が、ある法律を思いついた。その名も、Birth法。
 中絶、または故意に流産した女性を取り締まろうというものだった。
 東京、大阪、名古屋、札幌、福岡、沖縄・・・と、各地にそんな女性を収容する施設が急ピッチで作られた。名づけてBirth Town(通称 BT)。
(6月08日(木)23時53分05秒)
中絶は五年、故意の流産は二年から五年、女性はそこで生活をしなければならない。
 目的は、命の大切さを理解させるため。そういう名目の元、彼女たちがその中で送る生活は決して生半可なものではなかった。
 彼女たちは、BTの中で妊娠と出産を強要されるのである。それも、刑期を終えるその瞬間まで。
 そして、今日もまた一人の女性が、東京のBTに送られてきた。
(6月08日(木)23時53分25秒)
「それでは、こちらがお部屋になります。」
 そう言って、案内されたのは、一面真っ白な壁にベッドがズラリと並べられた大部屋だった。まるで、大きな病院のような光景。ただ違うのは、ベッドの数が約四十と多いのと、地下にあるため窓がなく、蛍光灯の明かりだけが無機質な明るさを生んでいた。
 管理人(ここでは、中で働く人のことをそう呼ぶ)は、手に持っていた分厚いファイルを開き、一人の女性を呼んだ。
「彼女は真紀。ここに来て一年なのでもし何かあったら彼女に聞きなさい。」
 管理人はそれだけ言うと、部屋を出て行った。
「真紀です。」彼女は、少し寂しそうな笑みを浮かべながら片手を差し出した。
 よく見ると、彼女のお腹は少し膨らんでいた。ここに入っている人は、皆大きめの白のワンピースを着ているためあまり目立たないが、細いからだでお腹だけが少し目立っていた。
(6月08日(木)23時53分50秒)
あなた、名前は?」「乃亜(のあ)です。」
「ここに入るのは初めて?」「はい・・・」
「じゃあ、ここがどんな所なのかは知らないのね。」「Birth法を犯した女性の収容施設ということしか・・・」
「そのうち分かるわ。ここでどんな暮らしが待っているのか・・・。・・・ひとつ聞いていいかしら?」「はい。」
「あなたがここに来た理由。」「・・・」

 四ヶ月前。私の彼は交通事故でこの世を去ってしまった。もしも、運命という言葉が本当で、その運命の歯車が狂い始めたキッカケを見つけるとしたら、私は迷わずその日を思い出す。
 仕事が終わり、自宅に向かっている途中、信号無視をしたトラックが彼の車に突っ込み、即死だった。
 結婚という文字も現実味を帯びていただけに、あまりに突然の死。死んでからしばらくは、まるで実感がなかった。
 ところが、彼が死んでから一ヵ月後。事態は思わぬ方向に動き始めた。
 数日間風邪気味だった私は、きっと疲れが出たんだろうと病院に行った。
「妊娠八週目ですね。」
 医師の笑顔とは裏腹に、その時私は彼の死を実感した。今、自分のお腹の子の父親はもういない・・・。子どもが出来たことを喜んでくれる彼はもういない。
 私は、悩んだ。Birth法ができ、中絶はできない。故意に流産しても犯罪になってしまう。けれど、一人でこの子を育てていく自信もなかった。
 悩んでも、お腹の中で新しい命は確実に育っていく。
 途方にくれる中、私はある噂を耳にした。
 インターネット上で秘かに活動している『堕胎屋』という存在を・・・。
(6月08日(木)23時54分32秒)
「では、本当に後悔しませんね。もしも、今後何かあっても、我々は一切関与しないのでそのつもりで・・・」
 堕胎屋のホームページにアクセスし、私は賭けに出た。数日後、私の家に堕胎屋の関係者と名乗る男がやってきた。彼に案内されてやってきたのは、今は使われていないビルの一室だった。産婦人科で内診の時に使うようなイスが一台。あとは医療器具がいくつか置かれただけの質素な部屋。
 下着をはずし、言われるがまま横になった。
 医師との間にカーテンのようなものはなく、お互いの様子が丸見えだった。彼の手は私の脚をつかみ、台に乗せた。そして、器具を私の体内に入れニヤリと笑った。
「本当なら、麻酔をするんだが、ここでは麻酔は使わないからね。」そう言うと、長い金属の棒のようなものを入れ始めた。
「あっ!!」
 子宮の中で棒がグルグルとかき回され、何ともいえない激痛が体を走った。
「いやぁ!!いたいいいいいいいいいいいいい」
 思わず体が動く。すると余計に痛くなり・・・それの繰り返しだった。
 その後は覚えていない。気がつくと、自分の部屋のベッドで眠っていた。

 警察が家に来たのは、その一週間後だった。
(6月08日(木)23時54分58秒)
堕胎屋の主人が、密告により警察の摘発を受け、そこで中絶手術をした女性が明らかになった。
 私は、すぐにBirth法による裁判を受け、五年の刑が言い渡された。


「そう・・・。私は、仕事が好きで妊娠がわかった時海に入ったの。まだ寒い季節だった。たまたま近所の人が通報して、でももう流産してたから、故意の流産で三年。あと二年。」
 彼女はそういうと、自分のベッドに横になった。
 その日の深夜。私は誰かのうめき声で目を覚ました。
 見ると、向かいのベッドで寝ていた女性がお腹を抑えてうめき声を上げていた。
「大丈夫ですか?」
 すると、部屋の入り口が開いて数人の管理人が入ってきた。管理人は彼女をストレッチャーに乗せ、あっという間にどこかへ運んでいった。
 何が起こったのか分からず呆然と立ち尽くす私の前に、朝私をここに案内した管理人が声をかけた。
「乃亜。あなたに見せておきたいものがあります。いらっしゃい。」
 彼女の後をついて行く。すると、目の前に扉が現れた。
(6月08日(木)23時56分18秒)
「これを着なさい。」渡されたのは手術着とマスクだった。言われるままにそれらをつけ、中に入る。
 中では、異様な光景が広がっていた。
 六台のベッドが並び、それぞれのベッドの横には手術着を着た管理人が二人ずつ。
 そして、ベッドの上には・・・・・・・・・。
「んんんんんーーーーっっっあああああ!!」
「はぁはぁ・・・あっ!!!!」
「あああああああああああああーーーーーーー」
 今まさに赤ん坊を産もうとしている女性が六人。
「ここは産室です。そして・・・」
 管理人は、さらに部屋の奥に入っていった。
「ここが新生児室。」
 赤ん坊が十人ほど並んで寝かされている。
「乃亜。あなたはここに来た女性がどんな暮らしをするか聞いたことは?」首を横に振る。
「BTに運ばれてくる女性は皆同じ運命を辿ります。あなた達は、生まれてくるはずだった命を自ら消してしまった。その罪は新しい命で償ってもらいます。ここに来ると女性はみな、妊娠をしてもらいます。妊娠期間は六ヶ月。ここでは最先端の医療技術を用いて、母体に半年いれば大丈夫なようになっています。妊娠、六ヶ月後に出産、そして少ししてから再び妊娠、出産・・・。これを、定められた期間繰り返してもらいます。」
(6月08日(木)23時58分08秒)
感情を込めず機械的に話す彼女の言葉は、なかなか理解できなかった。ただ、立ち尽くして聞くしかなかった。彼女はさらに続けた。
「生まれてきた子どもは、一時的に病院に預けられ、子どもがほしい家庭に引き渡されます。つまり、あなた方にはただひたすら産んでもらいます。」
 彼女は、私の腕をつかむと、新生児室の隣に入った。
「ここは・・・」
 中はひんやりとしていた。壁には無数の試験管のようなものが置いてある。状況がまったく分からない中、管理人は私をイスに座らせた。そのイスは、堕胎屋にあったものとほとんど同じだった。
 カチッ。
 手足をそれぞれイスに固定され、管理人は注射器のようなものを持って正面に座った。
「さぁ、体の力を抜いて。」医療用手袋をした彼女の手が私の膣に伸びてきた。恐怖のあまり声が出ない。
「・・・や・・・」
「あなたが殺した子どもも同じことを思ったでしょうね。」
(6月08日(木)23時59分17秒)
「なにする・・・・・・」「さっきも言ったでしょう。あなたはここで生み続けるのよ。五年、ずっとね。」
「・・・・・」「この部屋には精子が保存されているの。ここの女性は皆ここで人工的に妊娠し、そして出産。・・・大丈夫よ、すぐに終わるから。」
 まるで子どもをあやすような優しい声。怖い・・・・・・・。
 ゆっくりと注射器が向かってくる。手足が固定されているが、それでも体をよじって必死に抵抗する。
「ふふ・・・誰でも最初は怖いもの。大丈夫、さぁ、リラックスしないと、ちゃんと体が精子を受け入れないでしょう。」
「いや・・・・・・やめて・・・・」
「泣いてもムダ。あなたはこうなる運命なんだから。」
「たすけて・・・おねがい・・・いや・・・・・・・・・・・」
 ビクン!
 注射器が体内に入った。
 ゆっくりと体内を液体が流れているのがわかる。
        これが、BTでの最初の妊娠だった。
(6月08日(木)23時59分39秒)
半年後。
「はっはっは」
「しっかり息んで」
「んんんんんんーーーー」
「いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃいいいいいいいいいいいいいい」
「頭が見えてきた。」
「ぐーーーーーーんんんんっっっっっああああはああああああはああああ」
「そのまま」
「ひっひっひっ」
 私はBTで、女の子を出産した。
 そして、また妊娠。第二子、女児。第三子、男児。
第四子、男児。第五子、女児二名(双子)。
 第七・・・・・・。
 私は、五年間。ほとんど休むことなく妊娠、出産を続けた。
 そして今日。
 バースタウンを去る。もう二度とこの場所に戻ってこないと強く誓い・・・。
(6月09日(金)00時00分20秒)
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オリジナルはゆいぼーど&ゆいぼーと